冬の足音が聞こえ始めた12月初旬、私は10年ぶりに故郷の駅に降り立ちました。 駅前に広がる景色は、記憶の中とは別物でした。かつての賑わいは影を潜め、閑散とした空気が漂っています。 私の名前は佐々木奈央。27歳、都内の出版社で編集者として働いています。 10年前、この街で親友の遥が突然姿を消しました。その謎は今も私の心に深く刻まれています。 そして一週間前、突然届いた一通の手紙が、私の日常を大きく揺るがしました。 「12月24日、あの商店街で待っています」 差出人名はありませんでしたが、私にはすぐにわかりました。遥の丁寧な字体を、私が忘れるはずがありません。 私は会社に休暇を申請し、10年間触れることのなかった故郷への切符を手に入れました。 雪が舞い始めた駅前通りを歩きながら、私は遥との思い出を振り返っています。 私たちは幼稚園からの付き合いでした。両親の不仲に悩む私を、遥はいつも笑顔で支えてくれました。 放課後は必ずこの商店街で待ち合わせをして、古い駄菓子屋でお菓子を買い、路地裏の秘密基地で語り合いました。 「ねぇ、奈央ちゃん。私たち、ずっと一緒だよね」 遥の言葉が、まるで昨日のことのように蘇ります。 商店街の入り口に立つと、かつての活気は消え、シャッターの下りた店舗が並んでいました。 雪は次第に強くなり、足跡は瞬く間に消されていきます。 「おや、君も『消えた人々』を追いかけているのかい？」 突然声をかけられ、私は振り向きました。 カメラを手にした青年が立っています。首から下げた一眼レフカメラは、プロ用と見受けられました。 「消えた人々...ですか？」 「ああ、この商店街の都市伝説さ。雪の夜に現れる不思議な光に導かれて、人々が消えていくという話」 青年は慎吾と名乗りました。アマチュア写真家として、この街の謎を追い続けているそうです。 「実は私、10年前に消えた親友を探しているんです」 私の言葉に、慎吾さんの目が輝きました。 「そうか...もしかして、この写真の人物を知っているかな？」 慎吾さんがカメラの液晶画面を見せてくれました。 そこには、雪の中にぼんやりと浮かび上がる人影が映っています。 「これは...！」 私は思わず声を上げました。間違いありません。あの後ろ姿は遥そのものでした。 「この写真、いつ撮影されたものですか？」 「昨日の夜だよ。あの時計台の前でね」 慎吾さんが指さす先には、懐かしい時計台が佇んでいました。 商店街のシンボルとして愛されてきたその時計台は、今でも正確に時を刻んでいます。 「実はね、この商店街には『雪灯』という不思議な現象があるんだ」 慎吾さんは、カメラバッグから古びた新聞の切り抜きを取り出しました。 「雪灯...ゆきあかり？」 「ああ、雪の夜にだけ現れる神秘的な光のことさ。その光に包まれた人は、幸せな記憶と共に消えていくという」 私は遥の手紙を取り出し、慎吾さんに見せました。 「クリスマスイブの約束...これは間違いなく、雪灯と関係があるね」 慎吾さんは真剣な表情で続けます。 「実は、過去30年間でこの商店街から失踪した人は27人もいるんだ。そして、その全てが雪の夜だった」 私の背筋が凍りつきました。遥の失踪は、決して単独の出来事ではなかったのです。 「あの...この商店街のことをもっと詳しく教えていただけませんか？」 慎吾さんは優しく微笑みました。 「もちろん。でも、その前にどこか暖かい場所で話さないか？たまたま、まだ営業している喫茶店を知ってるんだ」 私たちは、雪の舞う商店街を歩き始めました。 シャッター街の中で、ポツンと温かな明かりを灯す「珈琲屋 あかり」。 そこは遥と私がよく利用していた思い出の場所でもありました。 ドアを開けると、懐かしい珈琲の香りが私たちを包み込みます。 「まぁ、奈央ちゃん！」 カウンターの向こうから、マスターの奥さんが驚きの声を上げました。 「おばあちゃん、お久しぶりです」 私は深々と頭を下げました。マスターの奥さん、私たちは皆「おばあちゃん」と呼んでいます。 「まぁまぁ、さっき遥ちゃんも来てたのよ」 その言葉に、私は思わず息を呑みました。 「遥が...ここに？」 「ええ、いつもの窓際の席でお茶を飲んでたわ。相変わらずね、あの子」 私は慎吾さんと視線を交わしました。 （つづく） 全部を載せたいのですが、残念ながらこちらのキャプション欄には文字の制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！