ネオン輝く新宿の片隅で、私は今日も夢を追いかけていた。 地下アイドル、如月ユキ。17歳。売れない、人気もない、それでも私はステージに立ち続ける。家族からは「普通の高校生活を送れば」と言われ続けて早2年。 今夜も観客はまばら。5人、いや、数えるまでもない。でも、それが私の日常だった。ステージの袖で深呼吸する私の横を、スタッフが忙しなく行き交う。 バックトラックが流れ始める。私の持ち歌「未来のシンフォニー」。作詞作曲は、どこかの売れない作家の売れ残り。それでも、この曲には私なりの想いを込めていた。 キラキラのワンピースがステージライトに照らされて、虹色に輝く。安物のスパンコールだけど、私にとっては何より大切な戦闘服。 そんな私のステージを、今日は特別な「誰か」が見ていた。客席の一番後ろ、立ち位置。完璧すぎる姿勢で佇む銀髪の少女。人工的な美しさを漂わせるその瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。 彼女の名はアイ。後で知ることになるけど、最新型アンドロイド「Project Eve」の試作機第一号。人工知能搭載の人型ロボット。でも、この時の私には、ただの変わった雰囲気のファンにしか見えなかった。 「また来てくれるかな」そんなことを考えながら、いつものように精一杯のパフォーマンスを繰り広げた。知らなかった。この出会いが、私の人生を、いや、アイドル界の常識を大きく覆すことになるなんて。 その夜、終演後。楽屋に響いたノックの音が、私たちの物語の始まりを告げていた。扉の向こうには、あの銀髪の少女が。そして彼女が放った一言が、全てを変えることになる。 「如月ユキさん。私もアイドルになりたいです。教えていただけませんか？」 機械的で、どこか人工的な声。でも、その眼差しには確かな意志が宿っていた。私は戸惑いながらも、つい頷いていた。これが私とアイの出会い。そして、前代未聞のアンドロイド・アイドル誕生への第一歩となった瞬間。 「アイドルに、なりたい？」思わず聞き返す私の声は、空っぽの楽屋に響いた。目の前の少女は、まるでプログラムされたかのように正確な90度のお辞儀をする。 「はい。私はProject Eve、通称アイと申します。人とAIの共生を研究するプロジェクトの一環として開発された、感情認識型アンドロイドです」 私の頭の中で、歯車がギシギシと音を立てる。アンドロイド？AI？なんだか近未来SF映画みたいな展開に、現実感が持てない。 アイの姿を改めて見つめる。確かに、どこか人工的な美しさがある。銀髪は月明かりのように輝き、瞳は深い海のように青い。でも、それ以外は普通の女の子と変わらない。 「私、今日のステージで初めて『感動』という感情を理解しました。ユキさんのパフォーマンスには、数値化できない魅力がある。それを、私も表現してみたいんです」 アイの言葉に、私の心が揺れる。今まで誰にも言われたことのない言葉。売れない地下アイドルの私のステージが、こんな風に誰かの心を動かせるなんて。 「でも、アンドロイドがアイドル...」私の言葉を遮るように、アイが歌い始めた。さっきの私の持ち歌。ピッチは完璧で、音程も間違えない。でも、何かが足りない。 「歌うことはできます。ダンスの動作も完璧に再現できます。でも、それだけじゃアイドルになれないことは、理解しています。だから...」 アイの瞳が、より一層輝きを増す。「ユキさんに、『心』を教えてほしいんです」 私は深いため息をつく。正直、面倒なことになりそうだ。でも、この不思議な出会いに、運命めいたものを感じていた。 「分かった。教えてあげる。でも約束して。アイドルの世界は、プログラム通りにはいかないよ。それでも頑張れる？」 アイは初めて、ぎこちないけれど確かな笑顔を見せた。「はい。それが『成長』というものだと、学習しています」 その夜、私は日記にこう書き込んだ。「今日から、私はアンドロイドのアイドル教官になりました。この選択が正しいのかは分からない。でも、きっと面白いことになるはず」 次の日から、アイとの打ち合わせが始まった。人工知能とLINEするなんて、なんだか不思議な感じ。 「レッスン場所は、渋谷のスタジオAGORAでどうでしょうか。私の開発元の企業が持っている施設です」というアイからのメッセージに、思わず目を疑う。 有名な芸能事務所も使用する超高級スタジオ。私みたいな地下アイドルには、普段は縁のない場所。でも、これもアイが「特別」である証なのかもしれない。 （つづく） 文字数に制限があるため、続きが気になる方は私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！