私はカボチャの妖精、マリィ。オレンジのドレスをまとい、光る羽根を背にしたこの姿が、私の正装だ。夜が来ると、この小さなカボチャ畑は私の舞台に変わる。月の光がふんわりと降り注ぎ、カボチャのランタンがぽっかりと笑う。暗闇に浮かぶその顔は、何とも愛嬌があるが、ちょっとだけ不気味で、でも心のどこかが温かくなるような気がするのだ。 私の髪はオレンジ色のリボンで結ばれ、ふわりと跳ねるようにツインテールに仕立ててある。耳には小さな尖りがあり、妖精であることの証としてここにある。顔には点々と小さなそばかすが散りばめられ、鼻先が少し赤みを帯びる。頬のほんのりとしたピンク色は、まるで秋の夕日に染まる葉っぱのようだと、私は勝手に思っている。 そんな私のドレスも、オレンジ色でカボチャ色。胸元には小さなリボンがあしらわれ、どことなく可憐で儚い雰囲気を醸し出している。ふわりと広がるスカートは、風が吹くたびに軽やかに揺れ、まるで私が風と踊っているかのように見えるのだ。そして、背中には透き通った羽根がある。この羽根は夜になると微かな光を放ち、私が妖精であることを静かに主張してくれる。 しかし、私が一人ここにいるのは、ただの気まぐれやファッションのためではない。毎年、秋が深まると、私はこのカボチャ畑に呼ばれる。カボチャたちは私の友達だ。日が暮れて静かな闇が広がると、彼らは口々に私に語りかける。「マリィ、今年も来たのか？」「お前の羽根はいつも美しいね。」そんなふうに、彼らの声はまるで古い友人たちのように優しい。それぞれの顔が笑い、揺れる光が揺らめくたび、私はまるでこの世界に溶け込んでしまいそうになる。 けれど、今年の秋は少し違う。カボチャたちが私に内緒話をするのだ。彼らの話では、畑の奥深くにある、誰も入ってはいけない「禁断のカボチャ」が怪しい輝きを放っているという。そのカボチャは、ただのランタンではないらしい。封じられた魔法が込められており、もし誰かが触れてしまえば、畑全体が闇に飲み込まれてしまうというのだ。 「マリィ、気をつけろ。あのカボチャには近づくな」と、カボチャたちは私に忠告する。けれども私は好奇心に抗えない。誰も触れてはいけないと言われるほど、その奥深くに眠るカボチャが私を呼んでいる気がするのだ。静かな夜風が私の耳元をくすぐり、葉のざわめきが不思議な音楽となって私を誘う。 そして、私はついにその禁断のカボチャの前に立つことに決めた。畑の奥へ進むたびに、他のカボチャたちは私を止めようとするが、私はただ静かに微笑み、「大丈夫だよ」とつぶやいて歩き続ける。禁断のカボチャは他のカボチャよりも少しだけ大きく、光は穏やかでありながら深い奥行きを持っていた。その顔には笑顔もなく、ただ静かに私を見つめ返している。 私はそっと手を伸ばし、その表面に触れる。すると、カボチャの中から柔らかな光が私の手元に集まり、まるで何かを伝えたいかのように震えている。「何かが始まる」と心の中で囁く声が聞こえ、私の胸が高鳴る。魔法が解き放たれるか、それとも私が飲み込まれるのか。けれど、私は恐れることなくその光の中に身を任せた。 ふっと、光が収まり、静寂が戻る。気づけば、私の羽根が以前よりも輝きを増していた。禁断のカボチャは消えており、代わりに穏やかな風が畑全体を包み込んでいる。「ありがとう、マリィ」と小さな声が聞こえ、私は微笑んだ。禁断のカボチャはただの脅威ではなく、何かを守っていた存在だったのだろう。 そうして、私は再び仲間たちのもとに戻った。カボチャたちは皆、何もなかったかのように微笑み、私を迎え入れてくれた。私はただ小さくうなずき、彼らに微笑み返す。夜は更け、月は静かに見守っている。 この小さな冒険がいつかの思い出になるとしても、私はこの畑と共にある。