雷鳴が轟く夜、私は竹刀を握りしめていた。「これでもか！」と素振りを繰り返す度に、着物の袖が風を切る。父上が営む桜井道場では、男衆の稽古が終わった後でないと、私は素振りもままならないのだ。 「千鶴、もう戻りなされ」 母上の声が聞こえるが、私は耳を貸さない。この桜井千鶴、十八にして道場破りを三度も撃退した腕前。それなのに、ただの娘だからという理由で表立った指南は許されないのだ。 雨脚が強まる中、私は竹刀を天に掲げた。「なぜ、生まれが女だというだけで…」⚔️その瞬間、眩い光が私を包み込んだ。 気が付くと、私の目の前には信じられない光景が広がっていた。空まで届きそうな鏡のような建物、馬車のような形をした箱が音を立てて走り、着物姿の人など一人も見当たらない。「これは一体…」 「きゃー！」悲鳴が聞こえた方を振り向くと、派手な色の着物…いや、違う何かを着た娘が、怪しげな男たちに囲まれていた。 咄嗟に私は竹刀を構えた。「そこまでだ！」男たちは私の姿を見て笑い出した。が、それも束の間。竹刀による一閃、二閃。「うわっ」と悲鳴を上げた男たちは、尻餅をついて逃げ出した。 「すごい…」助けた娘が目を輝かせる。「私、萌っていいます！お礼に何かさせてください！」その瞬間、私の腹が大きな音を立てた。「あの…実は腹が減って」と言いかけると、萌は嬉しそうに手を叩いた。 「じゃあ、うちでごはん食べましょう！」萌に導かれて歩きながら、私は思った。どうやら私は、とんでもない場所に迷い込んでしまったようだ。これが噂に聞く「未来」というものなのだろうか…。 萌の家は「マンション」という、箱を積み重ねたような不思議な建物の中にあった。私が靴を脱ごうとすると、萌は「スリッパどうぞ」と謎の履物を差し出してきた。 「お邪魔いたします…」玄関を上がると、そこには江戸では見たことのない道具の数々。壁に掛かった黒い鏡のような板、冷たい風を吹き出す箱、水が出る銀の棒…。全てが目新しく、私は目が回りそうになった。 「あ、お父さんとお母さん、今日は遅いみたい。千鶴さん、お腹空いてるでしょ？」萌は「冷蔵庫」という不思議な箱から次々と食べ物を取り出した。 「これ、レンチンするね！」萌が白い箱に食べ物を入れると、中から光が…！「妖術か！？」思わず竹刀を構えた私に、萌は「電子レンジだよ〜」と笑う。 「ところで千鶴さん、その格好…コスプレ？」萌に尋ねられ、私は事情を説明した。江戸の道場から来たこと、雷に打たれたこと、気づいたらここにいたことを。 「まじで！？タイムスリップ！？」萌は「スマホ」という板を取り出すと、カタカタと指を動かし始めた。「これ、ネットで調べれば…」 その時、玄関のドアが開く音が。「ただいまー」萌の両親が帰宅したのだ。着物姿の見知らぬ少女を前に、二人は目を丸くした。 「あのー、実は…」萌が説明を始めると、両親は意外にもすんなりと納得してくれた。「困っている人を助けるのは当然です。しばらくうちに居候していってください」 夜、借りた寝間着に着替えながら、私は思った。この時代の人々は、見知らぬ者にも優しい。けれど…私のような者が、この平和な世で何をすべきなのか。 「千鶴さーん、お風呂入りましょ！」萌の声に、私は我に返った。さて、これから「お風呂」という儀式に挑むとしよう…。 「お風呂」は衝撃的だった。お湯が天井から降り注ぎ、浴槽には好きな時に温かいお湯が溜められる。江戸の銭湯とは大違いだ。「これぞ未来の力…！」 朝になると、萌は「学校」という場所へ出かけていった。着替えた服は、まるで男装のような短い袴…いや、「制服」というらしい。「いってきまーす！」 留守番を言い付かった私は、萌の母・美咲さんから現代の生活指南を受けることになった。「はい、これがテレビのリモコンよ」 ボタンを押すと、箱の中に人が現れた。「まさか！箱の中に人を封じ込めているのか！？」慌てて剣を抜こうとする私を、美咲さんは慌てて止めた。 「違うの！映像っていって…ああ、そうだわ。千鶴ちゃん、写真って知ってる？」美咲さんの説明で、どうやらこれは遠くの景色や人を写し取る術らしいと分かった。 その日の午後、私は近所の「スーパー」なる店に買い物に行くことになった。両替したお金を持って店に入ると…。「なんと！米も魚も野菜も、全て陳列されているではないか！」 （つづく） 全部を載せたいのですが制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！