燃え盛るオレンジ色の閃光が、宇宙艇の視界を埋め尽くす。いや、違う。ただの光ではない——それは時間だ。流れているのではなく、そこに沈殿している。過去と未来が、空間の襞に絡みついて揺らめいている。 私はアイリス・レイ。エコーネイド号の操縦士にして、宇宙に取り残された最後の探究者🎇 「兄さん、聞こえる？」 無線は沈黙を保ったまま。予想はしていた。最後に交信を受信したのは、ちょうど七時間前——彼の船は、ここにいた。 それなのに、何もない。 ハイパースペース回廊の内部は、通常の宇宙とは異なる。銀河間を瞬時に繋ぐその通路は、理論上は「安全」なはずだった。それが真っ赤な嘘だと、人類が気づくのに時間はかからなかった。消息不明の船、消滅する乗員、そして……存在しないはずのものが、見える現象。 私は深く息を吸い、エコーネイド号の操縦桿を握り直した。AIナビゲーターが、静かに私を見つめている。 『アイリス、危険領域です。これ以上の進行は推奨されません。』 「知ってる。でも、進む。」 AIはしばらく沈黙した。彼はいつもそうだ。私の決断を止めない。ただ、選択肢を与える。 エコーネイド号は、私にとって唯一の相棒だった。 乗員は私一人。だが、それでいい。私は幼い頃から孤独に慣れていた。 ——いいや、それも嘘だ。 兄がいた。アレン・レイ。私の唯一の家族。 そして、彼はこの回廊のどこかで消えた。 それなのに、七時間前に突然、彼の声が届いた。 《アイリス……？　いるのか？》 壊れた電波の向こうで、確かに彼の声だった。だけど、どうして？アレンの船が行方不明になったのは二年前だ。 ——ありえない。 でも、私は信じた。信じるしかなかった。 だから今、私はここにいる。 目の前に広がる景色は、正しくない。宇宙のはずなのに、星がない。光が折れ曲がり、反射し、消えたり現れたりする。 そして、耳元で囁く声。 《アイリス……》 背筋が凍る。 操縦桿を握る指が震える。 「兄さん……？」 答えは、なかった。 エコーネイド号のAIが、静かに告げる。 『異常検知。アイリス、これは……存在しないものです。』 私は歯を食いしばり、前を見た。 目の前に、黒い裂け目があった。 そこから、何かがこちらを見ている。 ——兄さん？ いいえ、それは違う。 それは、もっと大きな何か。 宇宙の法則を超えた、何かが。 [ (2) につづく ]