境界線の彼方へ - Where Walls Dissolve Into Light
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2156年、私たちの住む「第七管理区」は、巨大な防壁に守られた完璧な都市です。
空気清浄システムが整備された街並みには、常に程よい温度と湿度が保たれています。建物の外壁は自己修復性の特殊合金で覆われ、その表面で踊る光の模様は、まるで生きているかのよう。
私の名前はカナ。18歳になったばかりの、どこにでもいる普通の女の子です。少なくとも、あの日までは。
「カナ、今日も良い数値ね」
朝の健康診断で、母が私の栄養バランススコアを確認しながら微笑みかけてきます。防壁内での生活で最も重要なのは、完璧な健康管理です。
父は環境制御システムの技術者として、防壁の維持に関わる重要な仕事を任されています。母は遺伝子治療の研究者。二人とも都市の「理想的な市民」として、高い信頼を得ています。
でも、私には言えない秘密があります。夜、一人きりの部屋で見る悪夢。灰色の空の下、荒れ果てた大地を歩く夢。そんな光景を見たことはないはずなのに、まるで記憶の中からよみがえってくるかのように鮮明なのです。
「外界」。それは、私たちの住む都市を取り囲む防壁の向こう側にある世界のこと。環境汚染と放射能に侵された危険な場所だと、学校で教わりました。
けれど、時々思うのです。本当にそうなのかって。防壁の最上階から見える地平線の彼方には、私たちの知らない真実が隠されているんじゃないかって。
「カナ、急いで!」
朝食を終えた私は、親友のミライと待ち合わせるため、磁気浮上式トランジットに乗り込みます。窓越しに見える街並みは、いつもと変わらない完璧な姿。
でも今日は、何かが違います。街頭ホログラムが突然ちらついたかと思うと、見慣れない警告メッセージが浮かび上がったのです。
『注意:セキュリティレベル上昇』
『不審者の発見・通報に協力を』
ミライとの待ち合わせ場所に着くと、彼女は普段より深刻な表情をしていました。
「ねぇ、聞いた?昨日の夜、反体制派が見つかったんだって」
その言葉に、私の背筋が凍ります。反体制派。それは、この完璧な社会システムに疑問を投げかける危険分子のこと。
「誰なの...?」
ミライは周りを警戒するように視線を配り、小声で続けます。
「技術部門の上級職員だったらしいわ。家族もろとも連行されたって」
その瞬間、私の通信端末が鳴り響きます。画面に浮かび上がったのは、想像もしていなかったメッセージ。
『緊急通達:環境制御システム技術者・城崎翔太及び遺伝子治療研究員・城崎美咲、反体制活動の容疑により拘束』
私の両親の名前でした。
世界が、音もなく崩れ始めます。完璧だと思っていた日常が、砂時計の砂のようにこぼれ落ちていく。
そして私はその時、気づいてしまったのです。悪夢は、単なる夢ではなかったのかもしれないと。
父の仕事場。母の研究室。二人の残した痕跡を必死でたどっていった先で、私は一枚の古いメモリーカードを見つけます。
それを起動した瞬間、ホログラムが立ち上がり、父の声が響き始めました。
「カナ、もしこのメッセージを見ているなら、私たちはもうそばにいないだろう。だが、諦めてはいけない。防壁の真実を、お前に伝えなければならない」
この時から、私の物語は始まったのです。完璧な都市に隠された、想像もしていなかった真実への旅が。
***
父のメッセージは、私の知る世界の常識を覆すものでした。
「防壁は、私たちを守るためではない。閉じ込めるために作られた牢獄なのだ」
ホログラム越しの父の表情は、仕事から帰ってきた時には見せない、深刻なものでした。
「カナ、よく聞いてほしい。この都市を管理するAIは、人類を『保護』という名目で支配している。外界は確かに危険だ。だが、それは再生可能な世界なんだ」
父の言葉に、私の頭の中で様々な記憶が繋がっていきます。不自然なまでに整備された街並み。厳密な健康管理。そして、あの悪夢の正体。
「お前の夢は、記憶なんだ。3歳の時、私たちは外界から逃げてきた。だが、それは間違いだった。人類は外に出て、地球と向き合わなければならない」
突然、警報が鳴り響きます。
「誰かが来る!急いで、このカードを」
そこでホログラムは途切れました。でも、メッセージは続いています。カードの中には、大量のデータと、ある座標が記録されていました。
私は決心します。両親を救うため、そして真実を知るために、この完璧な牢獄から脱出しなければならない。
(つづく)
全部を載せたいのですが、制限があるため、もし続きが気になる方は私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします!