「夢中になるって、こういうこと。」 開演のベルが鳴る。暗転したステージに、期待と興奮のざわめきが広がる。 ——その瞬間、私は確かに生きている。 推し活は、ただの趣味じゃない。 私の人生に、彩りを与えてくれるものだ。 「ユイ、まじで神席すぎない！？」 隣で友達のナナが興奮気味に腕をバシバシ叩いてくる。痛いけど、わかる。めちゃくちゃわかる。私たちの席は、花道のすぐそば。運が良ければ、メンバーが目の前に来るかもしれない。 「やばいやばいやばい……心臓持たない……！」 手に持ったペンライトが震える。XYZのライブは何度も来てるけど、今日は特別だ。だって、大本命のハルトがセンターのライブ。 ハルト——XYZのメインボーカルで、私の最推し。 彼の歌声は、私の心を掴んで離さない。どんなに落ち込んでいても、彼の歌を聴けば不思議と前を向ける。 そんな彼が、今から目の前で歌う。 「ユイって、いつからXYZにハマったんだっけ？」 ナナが開演待ちの間に聞いてきた。 「……え、あれはね……」 ふと、スマホの待ち受けにしているXYZのデビュー当時の写真を見つめる。もう3年前になるのか。 最初は、たまたまYouTubeでXYZの動画を見た。 その時は「ちょっとカッコいいかも？」くらいの軽い気持ちだった。 でも、ハルトのソロパートを聴いた瞬間、世界が変わった。 透き通るような歌声。 心に直接語りかけるような歌詞。 そして、どこか儚げな笑顔。 その日から、私はXYZにのめり込んでいった。 グッズを集め、ライブに行き、SNSでファン仲間と語り合う。 「好き」って気持ちが、日々の原動力になっていた。 でも——。 「……実はさ、XYZにハマる前、私、結構キツかったんだよね。」 ナナが「え？」という顔をする。 高校時代、私はずっと「普通でいなきゃ」って思ってた。周りに合わせて、波風を立てず、目立たず、流されるままに生きてた。 でも、それって本当に「生きてる」って言えるのかな？ XYZに出会って、私は気づいた。 「好きなものを好きって言っていいんだ。」 「自分の気持ちに素直になっていいんだ。」 それから私は変わった。 「ユイ、なんか最近楽しそうだね！」って言われることが増えた。 そりゃそうだ。私は今、心の底から幸せなんだから。 「うぉおおおおおおおおおおおおお！！！！！」 会場が揺れるほどの歓声。 スクリーンにカウントダウンが映し出される。 3 2️ 1️—— 「XYZ、カモン！！！！！」 爆発的なライトとともに、XYZのメンバーが登場する。 心臓が跳ね上がる。 その中心に——いた。 ハルト。 黒のジャケットに、銀色の装飾。 一瞬、息をするのを忘れる。 「今、世界が輝き出す——！」 ハルトの歌声が響く。 その一音で、全てが変わる。 私の世界は、彼の歌声とともに回っている。 音が身体を突き抜ける。 ズシンと響くベース、軽やかに舞うシンセサイザー、そして何より、ハルトの歌声が心を撃ち抜く。 「限界なんて、決めなくていい——！」 彼の声が会場全体に広がり、私たちの心を掴んで離さない。 「やばい、やばい、やばい……！」 ナナが隣で叫ぶ。わかる、わかるよ！！！ 私は夢中でペンライトを振る。光の海の中で、XYZのメンバーが踊り、歌う。彼らの動きが美しくシンクロし、まるで魔法みたいに輝いている。 そして——ハルトがこちらを見た。 一瞬だった。でも、確かに私を見た気がする。 視線が合ったような気がして、心臓が跳ねる。 (……え？ え？ えええ！？) 冷静になれない。頭が真っ白になる。 「ユイ、今、ハルトと目が合った！？」 ナナが興奮して肩を揺さぶる。 「わ、わかんない！でも、でも……！」 ハルトは確かに、こっちを見ていた——気がする。 そのまま曲は続く。 ハルトのソロパート。 「夢を追う君の背中が　僕の光になるんだ」 歌詞が心に刺さる。 まるで、私たちに向けて歌ってくれているみたいだ。 (……私、こんな風に誰かの光になれているのかな？) そんなことを考える。 （つづく） 全部を載せたいのですが文字の制限があるため、もし続きが気になる方は私のnoteをご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！