彼女は美しすぎた🥀🔮 ーー完璧であることは、罪なのか。
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静寂の中に、靴音だけが響いていた。
廊下は異様なほどに長く、壁に並ぶステンドグラスが月明かりを受け、青白い影を床に落としている。天井は高く、ほんのわずかな風でも揺れるシャンデリアの鈍い光が、暗闇に囚われたように微かに瞬いていた。
私はこの学園の生徒会長、桐ヶ谷凛子。
格式高い名門女子校において、私の名は無視できないものとして囁かれる。父は学園の理事を務め、母は社交界の華。私自身も完璧であることを求められ、それに応じてきた。気品、優雅さ、知性、それらを兼ね備えた者こそ、この学園の象徴となるべき存在なのだから。
しかし、それは「私」という存在ではなかった。ただの理想の化身にすぎない。
だからこそ、彼女に惹かれたのかもしれない。
雫——
月の雫のような名前。ふと触れれば指の隙間から零れ落ちてしまいそうな儚さ。彼女は転校生だった。少し陰のある雰囲気をまとい、他の生徒とは違う空気を持っていた。長く伸びた黒髪、雪のように白い肌、寡黙だが、どこか挑むような視線。
初めて言葉を交わした日のことを、今でも覚えている。
「あなたが……生徒会長?」
廊下の隅、沈黙の中で交わされた短い会話。
彼女は私をまっすぐに見つめ、わずかに首を傾げた。その瞳はまるで何かを見透かすようで、私は言葉を失った。生徒たちは私を恐れ、敬意を持って接する。誰もが目を伏せ、表面的な敬語を並べるだけ。
なのに、雫だけは違った。
「そう、桐ヶ谷凛子よ」
私の声は思いのほか冷たかった。彼女の瞳を振り払うように、つまらなさそうに答えた。でも、心の奥では妙な焦燥を感じていた。
「ふうん……」
彼女は笑わなかった。ただ、静かに目を細めただけ。
その仕草に、私は理由もなく胸を締めつけられた。
その日から、私は彼女を意識するようになった。廊下ですれ違うたび、無表情を装いながらも、心の奥では小さな波が生まれるのを感じていた。私は完璧な生徒会長でなくてはならない。私の振る舞いは、この学園の秩序そのもの。しかし、彼女を前にすると、その均衡が崩れるようだった。
夜、ベッドに横たわりながら、私は何度も彼女の顔を思い出していた。
ーーその唇に触れたら、どんな感触がするのだろう。
考えるべきではないことだと分かっているのに、想像は止まらない。禁じられた思いほど甘美なものはない。触れてはならないと分かっているからこそ、その衝動は抑えがたく、心の奥で静かに蠢いていた。
それが愛なのか、それとも堕落なのか。
まだ、私は知らなかった。
**
次に彼女を見たのは、図書室だった。
古びた木製の書棚が迷宮のように並び、空気は静寂と紙の匂いに満ちていた。黄ばんだランプの光が机の上に円を描く。誰もいないはずのその空間に、彼女はいた。
雫は窓辺に座り、外を眺めていた。髪をゆるく結い、制服のリボンは少し崩れている。窓の外には、寮の裏庭が見えた。夜の帳が下り、バラの茂みが黒い影を作っている。
私は足音を忍ばせ、彼女の傍まで歩いた。
「何をしているの?」
彼女は振り向かない。
「月が綺麗だから、見てたの」
その言葉に、胸が少しざわめいた。
ーー月が綺麗。
それは、遠回しの愛の言葉ではなかったか?
私はふと、彼女の横に腰を下ろした。窓の外には確かに美しい月があった。静かに光を放ち、夜の闇に孤独に浮かんでいる。
「月なんて、毎日見てるでしょう?」
何気なく言ったつもりだった。でも、彼女は微笑んで、ふとこちらを見つめた。
「あなたみたいね」
私は思わず息をのんだ。
「……どういう意味?」
彼女は言葉を続けなかった。ただ、じっと私を見つめていた。その瞳はどこまでも深く、引き込まれそうなほどに暗い。
ーー逃げなくちゃ。
そう思ったのに、身体は動かなかった。
雫の指先が、そっと私の手の甲に触れた。
わずかに冷たい。その冷たさが、私の肌に残る熱を奪っていく。
「……雫?」
彼女は私の名前を呼ばなかった。ただ、指先の感触だけを残して、ふっと手を引いた。その指が離れた瞬間、私はひどく寂しくなった。
何かを言わなければいけない。でも、何を言えばいいのか分からなかった。
「……生徒会長って、大変?」
唐突な質問だった。私は少し戸惑いながら、ふっと息を吐いた。
「ええ、とてもね」
「それなら、辞めれば?」
私は思わず笑ってしまった。
「そう簡単にはいかないのよ」
「……ふうん」
(つづく)
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