影を裂く者、雷をまとう少女 / She Who Wears the Storm
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モデル:flux1-schnell
夜が砕けるように明けていく。
遠くで瓦礫が崩れ落ちる音がした。誰もが夜のうちに獣に喰われることを恐れていたが、朝が来たところで状況が良くなるわけではない。朝日が照らすのは、焼け焦げた建物と、血に染まった地面だけだ。
カエデは廃墟の上に立ち、風の流れを感じた。かつてこの場所は高層ビルが立ち並ぶ大都市だったのだろうが、今では鉄骨がむき出しになった無機質な墓標にすぎない。彼女は小さく息を吐く。冷たい空気が喉をかすめる。
左手をゆっくりと上げる。指先が微かに震えるのを抑えながら、意識を集中させた。次の瞬間、掌の上に青白い光が生まれる。かすかに波打ち、ゆらめく――まるで生きているかのように。
彼女の力は"カミナリ"と呼ばれていた。雷とも電流とも異なる、それでいて確かに世界の理を支配する根源的なエネルギー。手のひらから流れ出るそれは、彼女の意思に応じて形を変え、空気すら振動させる。指を一本動かせば、風が生まれる。手を握れば、熱が発生する。使い方次第で生命を救うことも、奪うこともできる力だった。
彼女は何度もこのエネルギーを試したが、その本質は未だ掴めていない。どこから来たのか、なぜ自分に宿ったのか。わかっているのは、この力が彼女の体を通じて世界とつながっているということ。そして、力を使うたびに、体のどこかが削れていくような感覚があること。
「おい、カエデ!」
背後から声が飛んだ。
振り返ると、ルイがこちらを見ていた。彼の顔には泥がこびりついていて、昨夜の疲労が色濃く残っている。
「もう行くぞ。陽が高くなれば奴らが動き出す」
カエデは無言で光を消し、ルイの後に続く。生き残るには時間が必要だった。生きる意味を考える時間が。
だが、その時間すら、この世界は簡単に奪っていく。
*
彼らが歩くたびに、粉々になったコンクリートの破片が靴の下で砕ける音がする🐾 廃墟の街は静寂に包まれていたが、その沈黙は決して平穏を意味するものではなかった。どこかで誰かが潜み、あるいは狙っている。
ルイは小声で言った。
「南のルートは使えない。昨夜、あのバケモノが動いた跡があった」
"バケモノ"。この世界では、そう呼ばれる存在が数えきれないほどいる。人ではない何か。夜の闇から現れ、骨まで食い尽くす影🔪 あるいは、かつて人だったものが変異し、狂気のままに暴れる怪物たち。
「北の橋を渡るしかないな」
ルイが指差した先に、朽ちかけた高架橋があった。そこはすでに何度も戦場になった場所で、橋の上には焦げた車の残骸が散乱している💀 黒ずんだ血痕が鉄骨にこびりつき、いまだに腐臭が鼻をつく。
カエデは目を細め、空気を読んだ。
──静かすぎる。
嫌な予感がする。
掌を軽く開くと、指先に青白い光が宿る。ルイがそれを見て、肩をすくめた。
「まさか、何か感じるのか?」
「……風が死んでる」
この世界では、風さえも死ぬ。それは嵐の前の静寂を意味していた。
「急ぐぞ」
ルイが先に駆け出す。カエデも後に続こうとしたその瞬間──
ガシャァァァン!!!
鋭い金属音が響いた。錆びた鉄骨が崩れ、暗闇の奥から何かが動き出す。
カエデは即座に振り向き、両手を広げた。体の奥からエネルギーが湧き上がり、青白い稲妻が指先から走る。
ルイが叫ぶ。
「来るぞ!」
影が、地を這うようにこちらへ向かっていた──。
*
カエデは息を詰めた。
影が跳ねるように動く。
いや、違う。跳ねているのではない──"歪んで"いるのだ。
橋の下の闇から、異形のモノが這い出してきた。
人間の形をしている……はずなのに、皮膚はただれ、腕は異様に長く伸び、指の先は鉤爪のように鋭い。目は虚ろに光を反射し、口が裂けるように開く。
「"フレッシュイーター"か……!」ルイが唾を飲む。
人間だったものが、飢えに狂い、理性を喪い、ただ生きるためだけに肉を喰らう存在。
核の炎がすべてを焼いた後、飢えと毒に蝕まれた者たちの末路。
その群れが、這いながら、震えながら、ゆっくりと彼らに向かってくる。
足音が、増える。
一体ではない──五体、十体、それ以上……!
「数が多すぎる……!」
ルイは即座にナイフを抜いた🔪 だが、それだけでは到底足りない。
カエデは深く息を吸い、手をかざす。掌の奥で雷光が生まれ、バチバチと音を立てる。
"カミナリ"が、体を駆け巡る。
──冷静になれ。
──力を恐れるな。
──私は、選べる。
狭間で揺らぐ思考を押し殺し、カエデは足を踏み出した。
「いくよ」
轟音が響いた。
(つづく)
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