影の王国と失われた私 / The Kingdom of Shadows and My Lost Self
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AIツール:その他
モデル:flux1-schnell
白石紗季は、どこにでもいる平凡な女子大生だった。
……そう、少なくとも彼女自身はそう思い込もうとしていた。
朝はギリギリまで布団の中に潜り込み、電車の中では無機質なスマホの画面をスクロールし続ける。大学では誰かと話すことはあっても、それは波のように流れていく会話でしかなく、心のどこかで浮遊しているような感覚があった。
「つまんないな……」
カフェの窓際でカップを傾けながら、彼女はそう呟いた。けれど、その言葉がどこから来たものなのか、自分でも分からなかった。
恵まれていないわけじゃない。特別大きな悩みがあるわけでもない。けれど、心の奥底には何かぽっかりと穴が空いているような感覚があった。まるで、自分の「本当の姿」がどこかに忘れ去られ、空っぽの殻だけがこの世界を歩いているような。
そんな感覚を抱えたまま、彼女はいつも通りアパートに帰り、いつも通り鍵を開け、そして、いつもとは違うものを見つけた。
部屋の隅に立てかけられた、古びた姿見。
こんなもの、あっただろうか?
心当たりがないのに、妙な懐かしさがあった。木枠には精緻な彫刻が施され、ガラスは時間を帯びたようにぼんやりと曇っている。
ふと覗き込むと、鏡の向こうの自分がこちらをじっと見つめていた。
違和感があった。
目の奥が揺らいでいる。いや、揺らいでいるのは……向こう側の世界?
――その瞬間、鏡の中の「自分」が微笑んだ。
息が止まる。
いや、違う。これは……私じゃない。
目を背けようとしたが、何かに引き寄せられるように、鏡に吸い込まれた。
視界がぐにゃりと歪み、世界が裏返る。
重力がどこかへ消え、冷たい風が頬を撫でる。
気づいたとき、紗季は知らない世界に立っていた。
漆黒の空に、紫色の月が浮かんでいる。足元には、歪んだ建物が並ぶ石畳の街。光る蝶が宙を舞い、どこかからか微かな囁きが聞こえてくる。
「ここは……?」
紗季は、鏡の王国に迷い込んでしまったのだった。
*
風がざわめき、街の建物が静かにうねるように歪む。まるで生き物のように、ゆっくりと呼吸をしているかのようだった。
紗季は恐る恐る足を踏み出した。
靴底が石畳に触れるたびに、ざらりとした感触が足の裏に伝わる。空には紫の月が不気味な光を放ち、黒い霧のようなものが通りの隅々に漂っていた。
「夢……?」
自分の声が、少し遅れて響く。反響というよりも、誰かが真似して囁いているようだった。
彼女は辺りを見回した。
誰もいない。
でも、「誰かがいる」気配は確かにあった。
建物の影の奥、通りの向こう、見えないどこかから、じっとこちらを見つめる視線がある。
「ここは……本当に夢なの?」
肌を撫でる風は冷たく、震える指を握りしめると、爪が手のひらに食い込む痛みを感じた。
これは夢じゃない。
夢だったら、こんなにリアルな寒さや痛みがあるはずがない。
彼女は、恐る恐る前に進んだ。
そのとき――。
「待て!」
突然、背後から少年の声がした。
反射的に振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。
黒髪に金の瞳、鋭い眼差しを持つその少年は、ボロボロの黒いマントを羽織り、手には奇妙な杖を持っていた。
「お前……この世界の住人じゃないな」
低い声が紗季を射抜く。
「えっ……?」
「こっちに来るな!」
少年は鋭く叫んだ。
だが、紗季がその言葉の意味を理解する前に――
ゴォォォォォォン……!
重低音のような、不気味な鐘の音が街全体に響き渡った。
途端に、闇がざわめいた。
建物の影がぐにゃりとねじれ、黒い何かがうごめき始める。
それは……形を持たない"何か"だった。
人の形をしているようで、人ではない。獣のようにうなりながら、もがくように蠢く黒い影。
いや――違う。
それは、紗季の「恐怖」が形になったものだった。
彼女の心の奥底に巣食っていた、言葉にならない不安や自己嫌悪が、黒い塊となって街の影から這い出してきたのだ。
「逃げろ!」少年が叫ぶ。
紗季の足がすくむ。心臓が痛いほどに脈打つ。
だが――。
黒い影は、一瞬にして彼女の背後に回り込んでいた。
ひゅるり。
冷たい指のようなものが、紗季の首筋を撫でる💀
「―――ッ!!」
その瞬間、世界が真っ暗になった。
*
暗闇の中で、紗季は落ちていた。
いや、落ちているのかどうかも分からない。感覚が消えていく。ただ、冷たい水の中に沈んでいくような……重たくて、静かで、どこまでも深く沈んでいく感覚だけがあった🌊
「これは……私……?」
(つづく)
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