鏡の向こうの私たちへ / To All the Selves Beyond the Looking Glass
17
0
フォローする
AIツール:その他
モデル:flux1-schnell
鏡は私を嘲笑っていた。
狭いワンルームの壁に立てかけられた等身大の姿見に映る女子大生は、どこか歪んでみえる。白石紗季、20歳。自己紹介なんて、こんなものでいい。
私は鏡に映る自分から目を逸らした。最近、よく目が合う。いや、それは違う。鏡の中の私が、こちらを見つめてくるんだ。
レポートの締め切りまであと3日。机の上には教科書と参考文献が山積みになっている。でも、頭に入ってこない。心がざわつく。
「お母さん、私って本当にダメな子なの?」
思わず口から漏れた言葉に、部屋の空気が凍る。5年前、母が発した言葉が、今でも私の心に棘のように刺さっている。
窓の外では、春の雨が静かに降っていた。ポツポツと音を立てる雨粒が、どこか遠い世界の音楽のように聞こえる。
鏡を見る。鏡の中の私も見返してくる。でも、何かが違う。彼女の瞳が、紫色に輝いている。
「え...?」
私が驚いて瞬きをした時、鏡の表面が水面のように揺らめいた。そして─
「来てごらん」
誰かの囁きが聞こえた気がした。鏡に手を伸ばす。冷たい。でも、ぬるい。指先が鏡の中に吸い込まれていく。
「ちょっと、待って─」
慌てて手を引こうとしたけれど、もう遅かった。体が前のめりに傾き、意識が渦を巻くように歪んでいく。
世界が回転する。
私は鏡の中に落ちていった。それは、まるで Alice in Wonderland のように─いや、もっと暗く、もっと深く、もっと私だけの物語の始まりのように。
部屋に置き去りにされた目覚まし時計が、午後3時33分を指していた。外では雨が降り続け、誰も、女子大生が消えたことに気付かない。
そう、これが私の物語の始まり。鏡の向こう側で待っていたのは、まさか自分自身の怪物だとは、その時はまだ知らなかった。
目が覚めると、そこは見知らぬ世界だった。
まるでステンドグラスを通したような光が、七色の影を落としている。空には逆さまの月が浮かび、その周りを水晶のような星々が舞っていた。
「ここは...どこ?」
立ち上がろうとして、私は自分の服装に気づいた。いつもの部屋着は消え、代わりに青と銀の刺繍が施された不思議なドレスを纏っている。
遠くには水晶でできたような尖塔が聳え立ち、その周りを幾重もの虹色の雲が取り巻いていた。近くには歪んだ鏡が無数に立ち並び、それぞれが違う景色を映している。
「誰か、いませんか?」
声が虚空に吸い込まれていく。返事はない。代わりに、鏡の表面が波打ち始めた。
そこから這い出してきたのは...私自身だった。いや、私に似た形をした影。目は赤く光り、指先は鋭い爪になっている。
「来てくれて嬉しいわ、紗季」
影の私は優しく微笑んだ。その表情には、母の面影があった。
「あなたは...私?」
「そう、でも違う。私はあなたの中の不安よ。劣等感。自己嫌悪。全部、あなたが押し殺してきた感情の具現化」
私は後ずさった。足元がふらつく。影の私は一歩、また一歩と近づいてくる。
その時、突然強い風が吹き、影の私の姿を吹き飛ばした。
「危ないところだったね」
振り返ると、銀色の髪を持つ少年が立っていた。年の頃は私と同じくらいだろうか。紫の瞳が印象的だ。
「僕はアルト。この王国の案内人...というか、番人かな」
少年は優しく微笑んだ。その姿は、まるで月光を集めて作られたかのように儚げだった。
「この世界は、君の心が作り出した鏡像世界だよ。ここでは、君の感情が実体化する。時には味方として、時には敵として」
アルトの言葉に、私は先ほどの影の私のことを思い出した。あれは、本当に私の中にある感情なのか。
「でも、どうして私がここに...」
「それを見つけるのが、君の旅路になると思う」
アルトは不思議な杖を取り出し、前方に向けて振った。すると空間が歪み、光の道が現れる。
「さあ、行こうか。君の物語の本当の始まりへ」
私は深く息を吸い込んだ。これが現実なのか夢なのか、もうわからない。でも、きっとここに来たことには意味があるはず。
私は一歩を踏み出した。光の道の先で、また新たな"私"が待っているのかもしれない。
光の道を歩くうちに、周囲の景色が変わっていった。
まるでプリズムを通したような七色の光が、空間そのものを歪ませている。私の足元には、水面のように揺らめく道が続いていた。
「ねぇ、アルト。私の不安が形になるって言ったよね?」
「うん。この世界では、君の心の中にあるものが全て実体化するんだ」
(つづく)
文字数に制限があるため、続きは私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします!