私の名前はリリア。ここ、風の吹き抜ける小さな町で、薬屋を営んでいます。薬屋といっても、ただの病気を治すだけの薬を作るのではありません。人々の心や体の不調を癒し、生活に少しの安らぎをもたらすことが、私の仕事です。 この店は、木造の古びた建物に、太陽の光が柔らかく差し込む場所にあります。朝になると、窓から射し込む光が薬の瓶たちを照らし、ガラスの中で小さな虹が生まれます。棚には色とりどりの瓶や薬草がずらりと並び、時折風が吹き込むと、店内にはほんのりとハーブの香りが漂うのです。 私の髪はやわらかな金色で、毎朝結んでいるリボンには赤い羽根が飾られています。青いチュニックに白い刺繍が入った服は、町の仕立て屋さんが手掛けてくれたもの。腰には薬草や小瓶を入れるための赤い帯を巻いています。お客様が来たとき、軽く身をひねって挨拶すると、この服が少しだけふわりと広がるのが気に入っています。 ある朝、店を開けてほどなく、少年が入ってきました。背中を丸め、何かを言いかけては言いよどむ様子です。顔はどこか心細げで、視線も床ばかりを見ています。私は微笑んで声をかけました。「いらっしゃいませ。今日はどんなご用でしょうか？」 少年は少し驚いたように顔を上げ、しばらく沈黙したあと、やっと小さな声で答えました。「あの……最近、夜になると眠れなくて。お母さんも心配してて……」 眠れない夜の原因は、単なる身体の不調ではないことがほとんどです。心に何か引っかかるものがあると、眠りが浅くなり、やがて体にも影響を及ぼします。私はそっと棚に目をやり、心を落ち着ける薬草を使った薬を用意することにしました。 「この薬は、安眠のためのものです。眠る前に少しだけ、温かい水に溶かして飲んでください。それから……もしよかったら、少しだけお話を聞かせてくれませんか？」 少年は少し戸惑いながらも、ぽつりぽつりと話し始めました。最近、学校で友達とうまくいかず、些細なことでけんかをしてしまったこと。そのことで一人で悩み続け、眠れなくなってしまったこと。私に話しているうちに、少年の表情が少しずつ柔らかくなっていくのが分かりました。 「人はみんな、誰かに理解されたいし、仲良くしたいものです。でも、無理に何かを変えようとしなくても、少し時間が経てばきっとお互いの気持ちが通じ合えるものですよ。焦らずに、少しずつ歩んでいけばいいのです」 少年は目を丸くし、少しの間考え込んでいましたが、やがてにっこりと笑いました。「ありがとうございます。なんだか少し楽になりました」そう言って、薬を大切そうに抱えながら帰っていきました。 その日の夕方、今度は年配の女性が店を訪れました。彼女は近所で一人暮らしをしているおばあさんで、肩こりがひどいとのことでした。私は、痛みを和らげるためのハーブオイルを調合し、肩や首に塗ると良いことを伝えました。 「少しリラックスできる香りも加えておきましたので、夜に使うと、より効果的ですよ」と言うと、おばあさんはうれしそうに頷きました。「ありがとうねえ、リリアちゃん。いつも親切にしてくれて、助かるよ」 おばあさんが帰った後、ふと店の中を見渡しました。小さな薬瓶やハーブの束、日々の中で忘れ去られがちな小さな癒しの存在たちが並んでいます。人は、疲れや痛みを抱えながらも、誰かの言葉や心遣いに救われることがあるのだと、私は思うのです。そして、私の店がそんな場所であることに、少しだけ誇りを感じました。 夜になり、店の灯りを消そうとしたとき、ふと店の扉がノックされました。開けると、あの少年が立っていました。「先生、今日、薬を飲んで早く寝ます。そして、明日友達に謝ってみます。ありがとう」彼は少し照れ臭そうに、でも嬉しそうにそう言いました。 私は微笑みながら「そうですね。きっと、いい日になりますよ」と伝えました。少年が帰っていく姿を見送りながら、心が温かくなるのを感じました。私の小さな薬が、誰かの心に優しさや勇気を届けられたなら、それこそが私の幸せです。 店の灯りを消して、静かな夜の空気が店内に満ちます。明日もまた、誰かの小さな痛みや悩みに寄り添えるよう、私は薬を作り続けるでしょう。