私、朝倉陽菜は今、大きく跳んでいる。制服のスカートがふわりと舞い、茶色の髪が宙で踊る。空港の天井一面に広がるガラス張りの格子から差し込む朝日が、私の跳躍を金色に染めていく。 「行ってきまーす！」 声が、がらんとした出発ロビーに響く。早朝の関西国際空港は、これから始まる冒険を前に、静かな興奮に包まれていた。私の声に振り返った数人の外国人観光客が、思わず笑顔を返してくれる。黒と白のシンプルな制服姿で大きくジャンプする女子高生なんて、確かに面白い光景かもしれない。 でも、これが私の「決意」の形なんだ。 「陽菜、そろそろ保安検査場行かなあかんでー」 母の穏やかな声に、ようやく着地する。革靴が光沢のある白いタイルに触れる瞬間、心臓が大きく跳ねた。ここから先、本当の冒険が始まる。 私は短期留学生として、オーストラリアのブリスベンに向かう。たった半年。でも、この半年は私の人生を大きく変えるはずだ。金色の瞳を輝かせながら、スマホで撮った制服姿の最後の写真を確認する。ちょっと童顔な顔立ちに、不安と期待が入り混じった表情が浮かんでいる。 父が仕事の都合で見送りに来られなかったことは少し寂しかったけれど、でも、これも私が選んだ道。突然「留学したいねん」と言い出した私を、両親は驚きながらも支持してくれた。 「お母さん」 青と白を基調としたモダンな空間に立ち止まり、母の目をまっすぐ見つめる。照明に照らされた母の目が、少し潤んでいるように見えた。 「ありがとう。私、絶対に成長して帰ってくるから。めっちゃ立派になって帰ってくるから！」 母は何も言わず、ただ優しく頷いた。その仕草に、また跳びたくなる衝動を覚える。 実は、この「跳ぶ」という行為には、私なりの意味がある。小さい頃から、何か大きな決断をするとき、嬉しいとき、そして不安なときも、私は跳んできた。地面を蹴って、重力に逆らって、たとえほんの一瞬でも空中に浮かぶこと。それは私にとって、人生の岐路に立つたびの儀式のようなものだった。 保安検査場に向かう前、最後にもう一度跳んでみる。朝日に輝く格子状の天井を見上げながら、大きく息を吸って― 跳んだ。 今度は、これまでで一番高く。制服のスカートが風をはらみ、ネクタイが宙で揺れる。茶色の髪が顔の周りで舞い、頬を伝う空気が冷たい。でも、心は熱い。この瞬間、私は自分の選択に迷いなどないことを、改めて実感していた。 「ほな、行ってきます！」 着地とともに、母に深々と一礼をする。そう、これが私の新しい冒険の始まり。オーストラリアで待っている未知の経験に、胸が高鳴る。不安？もちろんある。でも、それ以上にワクワクする。だって、人生って案外シンプルだと思うんだ。 やりたいことがあるなら、まず跳んでみればいい。 たとえ着地がどうなるかわからなくても、跳ぶ瞬間の高揚感は、きっと私を強くしてくれる。 保安検査場のゲートをくぐりながら、最後に振り返る。母が小さく手を振っている。その姿が、朝日に照らされて、まるで光の中に溶けていくように見えた。 さあ、新しい私の物語が、今、始まろうとしている。