夕暮れ時の商店街に、スマートフォンを片手に佇む私。上野凛、28歳。老舗の精肉店「肉の上野」の一人娘だ。 赤と白のストライプの看板が、斜めの夕陽に照らされて妙に艶めかしい。父の背中を見て育った店の前で、今日もInstagramの投稿に悩んでいる。 「本日のおすすめ！黒毛和牛の切り落とし300g 980円！」 いいね数、12件。 溜め息が漏れる。昨日のスーパーのチラシには、もっと安い値段が踊っていた。 商店街の両端には、巨大な看板を掲げたスーパーマーケットがにらみ合うように建っている。その間に挟まれた私たちの商店街は、まるで時代という大きな波に飲み込まれそうな小舟のよう。 「凛ちゃん、今日も写真撮り？」 隣の八百屋の大介おじさんが声をかけてきた。白髪まじりの髪に、日焼けした笑顔。野菜の種類と値段を全部暗記している、商店街の生き字引だ。 「はい...でも、なかなか反応がよくなくて」 「うちも最近は客足が遠のいてね。若い子はみんなスーパーに行っちまう」 その言葉に胸が痛む。父は毎朝4時に市場へ行き、最高の肉を仕入れてくる。包丁を研ぐ音で目が覚めることも多い。 スマホの画面に映る自撮り。エプロン姿の私の横には、赤身の霜降りが美しい塊肉が写っている。でも、これじゃダメだ。 何かが足りない。伝統だけじゃない、革新も必要だ。 ふと、昨日Twitterで見た言葉を思い出す。 「継ぐなら、変えていこう」 その瞬間、新しいアイデアが閃いた。 ＊ 私の投稿はだんだんと変わっていった。 「今日の #お肉の時間。祖父から父へ、そして私へ。三代続く目利きの技をご紹介！今回は霜降り肉の見分け方講座です。」 動画再生回数が1000回を超えた。 「凛ちゃん、最近テレビ見てるみたいだねぇ。」 常連の田中さんが声をかけてきた。エコバッグを片手に、いつものように小分けの切り落としを買いに来てくれる。 「娘が見せてくれたのよ。あなたのインスタグラム。お肉の焼き方、とっても分かりやすかったわ」 その言葉に、私の心は踊った。見てくれている人がいる。それも、思いもよらない世代の人が。 「凛、あんたの動画見たぞ」 父の声に振り返ると、珍しく笑顔を浮かべていた。普段は無口な父が、スマートフォンを手にしている姿が少し可笑しい。 「最近の若い子は、料理の仕方を知らないんだろう？だから、あんたがやってることは大事なんだ」 父の言葉に、目頭が熱くなる。 次の動画では、父にも出演してもらうことにした。包丁さばきの音ASMR、肉の目利きポイント、手作りメンチカツのレシピ...。 「＃職人技 ＃商店街グルメ ＃お肉マイスター」 いいね数が徐々に増えていく。コメント欄には「近所に住んでるので、今度買いに行きます！」という声も。 そして、ある日のこと。 「あの、インスタ見ました！」 制服姿の女子高生が3人、店に駆け込んできた。 「メンチカツ、作ってみたいです！」 その瞬間、私は気づいた。変えるべきは、商品だけじゃない。伝え方を変えれば、お客様との距離も変わる。 商店街に新しい風が吹き始めていた。 ＊ 「上野さーん！」 商店街の入り口から、懐かしい声が響いてきた。振り返ると、高校の同級生、佐藤美咲が手を振っている。 「久しぶり！インスタ見てたのよ。実は相談があって」 美咲は今、地域活性化のコンサルタントをしているという。スーツ姿がどこか誇らしげだ。 「商店街の若手で、なにか面白いことできないかなって」 その言葉をきっかけに、私たちは動き始めた。八百屋の息子、魚屋の娘、パン屋の跡取り...。みんな、同じような悩みを抱えていた。 「＃商店街女子会 始めました！今日は肉の上野特製ローストビーフ×パン工房タカハシのバケット♪」 「＃職人の娘たち　八百屋セレクトの有機野菜と、魚与の新鮮刺身で手巻き寿司パーティー！」 コラボ企画の投稿は、予想以上の反響を呼んだ。 「若い子が戻ってきてくれて、商店街が明るくなったわ」 八百屋の大介おじさんの奥さんが、嬉しそうに話す。 でも、すべてが順調だったわけじゃない。 「なんでそんな無駄なことしてるんだ！」 ある夜、父が怒鳴った。 「商売は商品だ。こんなインスタだのなんだのに時間使ってる場合か！」 その夜、私は泣きながらスマホを開いた。するとメッセージが届いていた。 （つづく） 文字数に制限があるため、続きは私のブログ「MochiMermaid’s AI Art Adventures」をご覧ください。気に入っていただけたらハートマークをタップお願いします！